サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や老人ホームの給水設備設計において、もっとも頭を悩ませるのが「同時使用水量の算定」です。
通常のマンションと同じ基準で計算すると水圧不足のリスクがあり、一方で安全を見すぎると管径が肥大化し、コスト削減(VE)の観点から望ましい「直結直圧給水方式」が採用できず、受水槽方式に変更せざるを得なくなります。

本記事では、弊社が実際に直結直圧方式で設計・承認を得た「5階建てサービス付き高齢者向け共同住宅(定員70名)」の実例をもとに、過大設計を防ぎつつ確実なエビデンスとなる水理計算のプロセスを解説します。

1. なぜ高齢者施設向けの水理計算は難易度が高いのか?

高齢者向け住宅(サ高住など)が一般的な共同住宅と異なるのは、建物内に「居住機能」と「介護・サービス機能(デイサービスや共同厨房など)」が混在している点です。

  • 居住エリアは、一般住宅と同様に朝夕に緩やかなピークが来ます。
  • 介護エリア(デイサービス・機械浴・厨房など)は、特定の時間に一斉に水を使用する鋭いピーク特性を持ちます。

これらをすべて一律の計算式(例えばマンション用の居住人数ベースのみ、あるいは全器具の負荷単位法のみ)で計算すると、実態と大きく乖離し、メーター口径やメイン管径が過大になりがちです。

2. 【解決策】「住宅部門」と「介護部門」を分割するハイブリッド算定法

実務において、水道局などの審査機関を納得させ、かつ最適な管径を導き出すための有効なアプローチが「部門別の分割算定」です。
実際の設計実例では、以下のように計算を分割しています。

  • 住宅部門: 居住人数ベースの予測式を用いて算定する
  • 介護部門: 器具数ベース(末端給水用具の同時使用設定)で算定する
  • 合算: 上記2つの瞬時最大給水量を合計し、施設全体のピーク水量とする

このロジックを組むことで、「生活用水」と「業務用水」それぞれの特性を正確に反映した説得力のあるエビデンスとなります。

3. 【実例解説】5階建てサ高住における水理計算プロセス

ここからは、実際に行われた水理計算書の数値を追いながら、具体的な算定ステップを解説します。

  • 施設概要: 5階建てサービス付き高齢者向け共同住宅
  • 居住人数: 合計70人(1F:2人、2F〜5F:各17人)
  • 設計水頭(\(P_0\)): 0.33MPa = 33.6m

ステップ①:住宅部門の瞬時最大給水量の算定

居住スペースにおける水量は、人数から同時使用水量を予測する算定式を用いて計算します。

\[ Q = 15.2 \times P^{0.51} \]
  • 計算式: \(Q = 15.2 \times 70^{0.51}\)
  • 算出結果: \(133 L/min\)

設計のポイント

2階〜4階の共用系統を利用するのは同タイプの居住者であるため、共用水量もこの「居住人数(70人)」の中に含めて計算に落とし込んでいます。

ステップ②:介護部門の瞬時最大給水量の算定

デイサービスや厨房など「個人用用途」以外の設備については、給水器具数が30栓以下であることを確認した上で、「同時に使用する末端給水用具を設定して計算する方法」を採用します。

器具名 口径 設定水量 選定数 水量合計
便器(タンク)13mm12 L/min112 L/min
洗面器13mm8 L/min18 L/min
手洗器13mm5 L/min15 L/min
台所流し13mm12 L/min112 L/min
シャワー・浴槽13mm20 L/min120 L/min
汚物流し13mm12 L/min112 L/min
合計(介護部門) 69 L/min

ステップ③:メーター口径の選定と水理計算(直結直圧の検証)

ステップ①と②で求めた数値を合算し、建物全体のピーク水量を導き出します。

住宅 \(133 L/min\) 介護 \(69 L/min\) \(202 L/min\)

次に、この流量が引き込みメーターの能力範囲内かを検証します。
実例では口径50mmのメーターを選定しており、50mmメーターの瞬時最大給水量は「\(152 \sim 236 L/min\)」の範囲であるため、\(202 L/min\) は適用条件を見事にクリアしています。

さらに、配管摩擦損失計算により、各区間の動水勾配と換算延長から損失水頭を算出します。

  • 給水管摩擦損失(\(P_2\)): 13.42m
  • 有効水頭: 19.05m
  • 損失水頭合計: 18.52m

検証結果

「有効水頭(19.05m) > 損失水頭(18.52m)」となり、増圧ポンプや受水槽を持たない「直結直圧給水方式」が成立することが論理的に証明されました。

4. まとめ & 次のステップ

老人ホームやサ高住の設備設計において、施設全体の同時使用水量を正確に見積もることは、直結給水方式による大幅なコストダウンと省スペース化を実現するための生命線です。

  • 施設を「住宅」と「介護」に分け、それぞれの実態に即した計算式(人数ベースと器具積み上げベース)を組み合わせるのが実務の最適解です。
  • この根拠を明確に計算書に落とし込むことで、水道局との協議もスムーズに進みます。

この記事の執筆者

Kan (KSR設計合同会社 代表社員)

20年以上にわたり大手設備会社等で数多くの新築・改修工事の現場管理および設計・施工図作成に従事。病院や福祉施設など、高度な水理計算や特殊空調が必要なプロジェクトを多数経験。
保有資格:建築設備士 / 1級管工事施工管理技士 / エネルギー管理士 / 1級計装士

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KSR設計では、今回ご紹介したような特殊用途施設(高齢者施設、医療施設等)における複雑な水理計算や最適なシステム提案を支援しております。「直結方式が成立するか検証したい」「計算書のレビューをお願いしたい」といったお悩みがありましたらお気軽にご相談ください。

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